全国通訳案内士とは、訪日外国人が快適な旅行を楽しめるよう、英語やその他外国語で旅行の案内を行う名称独占の国家資格です。
平成30年1月4日に施行された改正通訳案内士法により、これまでの通訳案内士は「全国通訳案内士」となりました。
全国通訳案内士の特徴
大きく状況が変わっているため、今後については考慮が必要になります。
業務独占が廃止されました
かつては通訳案内士の資格は業務独占資格であり、通訳案内士の資格なく外国人をガイドして報酬を得ると罰金が課せられるようになっていました。
しかし平成29年6月2日に公布された改正通訳案内士法が平成30年1月4日に施行され、これまでの通訳案内士の名称は「全国通訳案内士」に変更され、独占業務は廃止となり、名称独占資格になってしまいました。
そうなった理由としては観光庁によると以下です。要するに外国人観光客が急増し、地方などで通訳案内士の数が追い付いていないからと言うことです。
通訳案内士法(昭和24年法律第210号)により、通訳案内士でなければ、外国人に対して外国語により有償で旅行に関する案内を業として行うことはできないとされている(業務独占)。しかし、2015年の訪日外国人旅行者は約2,000万人と急増し、「明日の日本を支える観光ビジョン」に掲げるとおり、今後2020年には4,000万人へ倍増させることが政府目標とされている。
こうした中、現行の通訳案内士の4分の3は都市部に偏在し、その言語も3分の2が英語であるため近年増加している中国語・韓国語等に対応できないという現状に鑑みれば、通訳案内士の業務独占を維持したままでは、「観光先進国」を目指す上で量と質の両面で対応できないことが明白であるとの指摘がある。したがって、訪日外国人旅行者の増加とニーズの多様化に対応するため、通訳案内士の業務独占規制を廃止し、名称独占のみ存続することとする。
近年おそらくどこの都道府県でも中国人観光客を見ない日はない状況ですし、その中で中国語・韓国語などの通訳案内士の数が足りないと言うのはやはり問題でしょう。
また2020年には東京オリンピックがありますし、そのときまでに人手不足を解消するために規制緩和すると言ったところですね。
業務独占廃止に潜む危険
「通訳案内士の業務独占を廃止して規制緩和」と聞けば特に関係のない業界で生きている方であれば「足りてないならいいんじゃないの」と感じる方もいらっしゃるでしょうが危険な判断だと言う意見も根強いです。
韓国では1999年に通訳ガイドの業務独占を廃止したことがあるのですが、その結果虚偽の説明をしたり歴史を歪曲するガイドが現れ、10年後の2009年に再度見直しされたと言う過去があります。現在の韓国では旅行業者に有資格者の添乗が義務づけられています。
「通訳案内士の業務独占廃止」を悪い表現にすると「闇通訳を認める」と言うことになります。ご存知の方も多いでしょうが通訳案内士の業務独占が廃止される前からすでに「闇通訳案内士」はたくさんいました。
特にここ数年は中国人旅行客に中国人の闇ガイドがついて高額な商品を売りつけたりする「同胞食い」と言われるような悪質商法の事例も多く発生しており、中国メディアも旅行者に対して注意を促しています。
こういう事例では空港のタクシーから紹介する店や宿泊施設まですべて闇ガイドをする中国人の関連施設であり、旅行者は日本に一銭も落とさないそうです。政府は観光先進国を目指し、訪日外国人旅行消費額8兆円を目標として掲げていますが、闇ガイドによるこのような事例が増えれば本末転倒でしょう。
通訳ガイドの質が下がって嫌な思いをすると旅行者はその国に良い印象を持たないため、多くの「観光国」と呼ばれる国では無資格ガイドを厳しく取り締まっています。
そのため日本国内でも通訳案内士の業務独占廃止は時期尚早であり、まずは闇ガイドを徹底的に取り締まるべきだと言う意見もよく見られます。
全国通訳案内士の将来性は?
業務独占廃止は通訳案内士の数が足りていないと言うところから決定されたのですが、そもそも業務独占時代から通訳案内士は難関資格のわりに仕事がなく低収入であると指摘されていました。理由としては仕事の依頼が少ない、ひいては闇通訳が全く取り締まられなかったからと言われています。
通訳案内士の有資格者の多くは旅行会社に勤務したり経験を積んでフリーとして活躍したり、日本観光通訳協会や派遣会社などに登録して仕事の依頼が来るのを待つというケースが多く、アルバイトとしては高収入ですが就職口は多くないと言う状況でしたので、業務独占廃止は間違っていると考えの方は多いです。
ただ規制緩和の流れは他の国でも起こっています。例えば無資格ガイドを厳しく取り締まる観光国タイでも近年外国人旅行者、とりわけ中国人観光客が急増しており、通訳ガイドの数が足りずに連日さまざまなトラブルが起こっているそうです。
日本の通訳案内士は国籍不問で受験できる国家資格ですがタイでは外国籍の者はライセンスを取得できないため大きな問題となっており、タイ政府は外国籍者にもガイドのライセンスの取得を許可するか検討していると2016年に報じられていました。
韓国の例や現在の中国人の「同胞食い」の例から見て無資格ガイドが増えると言うことは全体としてよくないことが起こることが想定できますが、逆に今まで放置されていた闇通訳案内士と本物の全国通訳案内士との差が顕著になり、箔がつく可能性もあります。
ヨーロッパなどの「通訳は大学院で学位を取った者である」と言うことが一般的な国々や、アメリカなどの「必要なときにプロを雇って然るべき対価を支払うと言う文化」が定着している国の観光客であれば、質に顕著な差が出ている状況であればプロである全国通訳案内士を率先して選ぶ可能性もあるでしょう。
将来性としては、全体としての質が下がると有資格者と大きく差がつく可能性があり、韓国の例のようにいずれまた業務独占に戻るかもしれないと楽観的に考えることもできなくもないですがそれは後々の話であり現時点では微妙なところと言えます。
他資格への影響
全国通訳案内士試験に合格した方は社会保険労務士試験の受験資格を満たします。
あまり関係のあるジャンルの資格ではありませんが、例えば基本的に社労士は中卒・高卒から受験するのには少し大変になりますので場合によっては役立つかもしれません。
全国通訳案内士になるには
国家試験に合格し、都道府県知事の登録を受ければ全国通訳案内士を名乗れます。かつては免許制でしたが平成18年から登録制に変わりました。
試験は誰でも受験でき、年齢・性別・学歴・国籍等に関係なく受験できます。
近年は合格率20%以上
かつては合格率5~6%(英語)と超難関資格ではありましたがここ最近では20%以上の合格率(英語)が続いており、平成25年度は30%以上が合格しました。
平成28年度の他の言語の合格率は中国語が9.5%、フランス語が20.1%、韓国語が15.8%となっており、最も合格率が高かった言語はドイツ語で31.3%、最も合格率が低かった言語はタイ語で6.4%となっています。
試験について
試験は筆記試験と口述試験の2つあります。
筆記試験の科目は「外国語」「日本地理」「日本歴史」「産業・経済・政治及び文化に関する一般常識」の4科目になります。
外国語については英語、フランス語、スペイン語、ドイツ語、中国語、イタリア語、ポルトガル語、ロシア語、韓国語、タイ語のうちからひとつ選びます。
口述試験は選択した外国語での会話が行われ、同時に人物考査も行われます。
一部科目免除があります
全国通訳案内士試験の筆記試験には多くの免除要件がありますのでできるだけ活用していきたいところです。
まずは筆記試験の「外国語」の科目が免除になる条件から見ていきましょう。英検やTOEICなどよく知られている資格・検定が免除要件になっています。
英検免除 | 英検1級合格者 | 英語免除 |
---|---|---|
TOEIC免除 | TOEIC(①~③のいずれか) ①公開テスト840点以上 ②スピーキングテスト150点以上 ③ライティングテスト160点以上 ※IPテストは対象外 |
英語免除 |
仏検免除 | 仏検1級合格者 | 仏語免除 |
独検免除 | 独検1級合格者 | 独語免除 |
中検免除 | 中検1級合格者 | 中国語免除 |
HSK免除 | HSK6級180点以上取得者 | 中国語免除 |
ハン検免除 | ハン検1級合格者 | 韓国語免除 |
TOPIK免除 | TOPIK6級取得者 | 韓国語免除 |
次に外国語以外の科目、日本地理や日本歴史、一般常識の科目の免除要件です。大学入試センター試験も対象になっています。
旅取免除 | 総合・国内旅行業務取扱管理者 | 日本地理免除 |
---|---|---|
地理検免除 | 地理検日本地理1級or2級 | 日本地理免除 |
歴検免除 | 歴検日本史1級or2級 | 日本歴史免除 |
センター日本史B免除 | 大学入試センター試験の「日本史B」60点以上 | 日本歴史免除 |
センター現代社会免除 | 大学入試センター試験の「現代社会」80点以上 | 一般常識免除 |
※地理検免除について
ここでの地理検とは「地理能力検定」の事を指しますが、地理能力検定の主催団体である公益財団法人日本余暇文化振興会が解散したため、この検定は平成25年度で終了しています。そのためこれから取得すると言うことは不可能になります。
次に前年度合格者等の免除についてです。
全国通訳案内士試験は科目合格があり、一度合格した科目は1年間有効となり、申請することで次年度の試験で合格した科目が免除されます。
前年度一部合格者合格科目免除 | 前年度の一部科目合格者 | 合格した科目を免除 |
---|---|---|
前年度4科目合格者免除 | 前年度筆記試験合格者で口述試験不合格or未受験の者 | 全科目免除 |
既合格者免除 | 他の外国語の通訳案内士 | 外国語の科目以外免除 |
地域限定通訳案内士免除 | 地域限定通訳案内士試験合格者 | 当該外国語免除 |
地域限定通訳案内士試験前年度外国語科目合格者免除 | 前年度地域限定通訳案内士試験の外国語科目が合格基準点に達した者 | 当該外国語免除 |
すでに全国通訳案内士の資格を持っていて他の外国語の全国通訳案内士も取得したいと言う場合、外国語の科目以外は免除となりますので挑戦しやすいですね。
資格には更新があります
平成30年1月4日に施行された改正通訳案内士法により、全国通訳案内士には登録後に5年ごとの定期研修を受けることが義務付けられました。
講習は平成32年度より順次開始予定になっており、研修を受講しなければ都道府県により登録を取消されることがあります。取消しから2年間は再登録することができないので要注意です。
研修の内容は「旅程管理の実務や災害時の対応など通訳案内士が実務において求められる知識」となっています。
まとめ
以上が通訳案内士についての全体像のまとめになります。
業務独占が廃止されるのはかなり大打撃であり、多くの通訳案内士有資格者の方が廃止しないよう求めていたようですが残念なことになってしまいました。
何か新しい有益な情報を見つけましたらこの記事を更新していきます。